※※この記事を書くにあたり、玄田有史さん編「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」や学生時代に受講した講義を参照したことを事前にお断り。※※
玄田有史さん編「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んだ。
自分が普段疑問に感じていることを整理することが出来た。
この本は、現代のサラリーマンが置かれている状況を把握するために非常に有用な書物だと思う。
サラリーマンとして、右肩上がりの給与をもらいながら、入社から定年まで勤め上げれば良い時代は終わった。
若手や中堅サラリーマンはまずこの事実を受け入れる。
そして、生活の基盤であり、資産運用の原資ともなる給与を有効活用して、自分の生活を守っていく方法を考えなければならない。
給与だけに頼っては生活出来なくなるという危機感を持って、資産運用など自衛手段に取り組まなければならないということだ。
今回は日本で賃金が上がらない理由について書いていく。
若手や中堅のサラリーマンが自衛について考えるきっかけになればと思う。
昇給の可能性ある?
いきなりだが質問。
質問1).昇給してる?:「はい」OR「いいえ」
質問2).昇給の可能性は?:「ある」OR「無い」
当然、この質問への回答は人それぞれだ。
業績の良い会社に勤めている人もいれば、そうでない人もいる。
給与水準が高い業界にいる人もいれば、そうでない人もいる。
昇格/昇進を重ね、昇給している人もいれば、そうでない人もいる。
私の回答は、質問1)が「はい」、質問2)が「いいえ」となる。
質問1)に「はい」と回答したが、昇給幅は本当に微々たるものであまり実感は無い。
質問2)に「いいえ」と回答したのは、勤めている会社の制度変更や日本社会の構造などを考えて本当に上がることは無いと感じているから。
大学時代の友人(先輩、同期や後輩)との会話を通じて、同じ様な境遇に置かれている人が多いことは把握している。
皆、大企業に勤める若手や中堅社員だが、総合商社など一部を除いて昇給は望めないと考えているようだ。
そして、もっと視野を広げて、今の日本を考えると、質問1)と2)共に「いいえ」の方が多いのではないかと思う。
では、何故、給与が上がらないのだろうか?
昇給を阻む複合要因
給与が上がらない理由は1つではない。
まず一番オーソドックスなものは、会社の業績が悪く、給与を上げる余力が無いということ。
これは理解し易い。
業界特有の要因もある。
医療や福祉産業では、診療報酬制度や介護報酬制度により、医療・介護サービスの価格が決められており、サービスの需要が増加しても、サービスの価格を値上げすることが出来ない。
介護保険利用者の増加により、財政状況が悪化すると国は支出を抑制する為、介護報酬を低く抑えようとする。
これでは利益が増えず、給与を上げられない。
他にも様々な要因があるが、絶対に触れないといけないのは「給与の上方硬直性」だ。
この給与の上方硬直性と日本の企業が抱える構造問題が絡み合い、昇給を阻む大きな障壁となる。
給与の上方硬直性と日本企業が抱える問題
労働の需給が緩んだり、会社の業績が悪いと給与は下がる。
逆に、労働の需給が締まったり、会社の業績が良いと給与は上がるはずだ。
しかし、現実ではそうならないケースがある。
今の日本はまさにこの状況だ。
給与の下方硬直性と上方硬直性が分かればこの状況を理解できる。
両方とも聞きなれない単語かもしれないが、内容は非常に簡単。
・給与の下方硬直性:どんな条件下でも給与が下がらないこと
給与の下方硬直性が働くと、労働の需給が緩んでも、会社の業績が悪くても、給与は下がらない。
・給与の上方硬直性:どんな条件下でも給与が上がらないこと
逆に給与の上方硬直性が働くと、労働の需給が締まっても、会社の業績が良くても、給与は上がらない。
まず給与の下方硬直性から説明する。
物価が下落している時、労働者の名目給与が引き下げられても、物価の下落率の方が名目給与の下落率より大きければ生活に困ることは無い。
ただ、労働者はこの名目給与の引き下げに対し強い心理的抵抗を示す。
名目給与の引き下げが、生産性の低下につながるという実験結果も出ている。
これは行動経済学で言う所の「損失回避特性」。
人間は、名目値で物事を判断し、一度手にしたものを手放すことに抵抗を示すという認知特性のこと。
企業も、人間のこの認知特性を把握しているので、労働需給が緩んだり、企業業績が悪い時でも名目給与の引き下げを出来るだけ回避しようとする。
これが給与の下方硬直性。
次に給与の上方硬直性の説明。
給与の下方硬直性を説明した後なので、給与の上方硬直性については簡単に理解出来ると思う。
一度上げてしまった給与は下げることが出来ない。
物価が下がっても、企業業績が悪化しても、給与の下方硬直性が働くから給与を下げるのは難易度が高い。
業績が悪くなっても、コスト(従業員への給与)は一定ということであれば、企業はそのコストを少しでも低く抑えようとし、給与の引き上げには消極的になる。
これが給与の上方硬直性
そして、ほぼ全ての日本企業が抱える問題がこの給与の上方硬直性を更に強固なものにする。
それは、バブル期に大量に採用された高給取りのサラリーマン達。
バブル期に入社したサラリーマンを否定するつもりは無い。
中にはそれなりの地位に就き、会社や国の為に頑張っている方もいる。
しかし、もう昇進や昇格の見込みも無く、定年まで少しでも楽をして会社にしがみつこうとする人も実に多く存在している。
彼らは仕事はしないが、勤続年数が長いという理由だけで高給取りだ。
いずれ日本でも解雇が当たり前になるかもしれないが、彼らの多くはこのまま高給をもらい続けて定年を迎えるだろう。
彼らの給与を下げられない(=給与の下方硬直性が働く)+彼らを首に出来ない(=日本の法制度)ということで、企業の業績に関係無くコストは一定なので、日本の企業は今後の給与の引き上げに消極的になる(=給与の上方硬直性が働く)のだ。
少し長くなったが、名目給与の引き下げに対する労働者の心理的抵抗が給与の下方硬直性を生み、その給与の下方硬直性が給与の上方硬直性を生むということが分かったと思う。
以上のことより、私の様な中堅社員やこれから社会に出るサラリーマン達の給与が上がることは考え辛い。
最後に
自分が生まれた時代を恨んでも仕方ない。
給与は上がらないものと考えて、各自LCPを準備しよう。
LCPって何?って人は、こちらの記事をご確認下さい。
人生100年時代。
私も心身共に健康に生きるために毎日出来ることをしていこうと思う。
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